大阪高等裁判所 昭和55年(行コ)31号 判決 1981年8月27日
神戸市兵庫区金平町一丁目三六番地
控訴人
江本ふさ子
神戸市兵庫区中庄通二丁目一番地
控訴人
江本正美
神戸市兵庫区金平町一丁目三四番地
控訴人
江本勝美
神戸市兵庫区金平町一丁目三六番地
控訴人
江本実
右四名訴訟代理人弁護士
松岡滋夫
神戸市兵庫区水木通二丁目五番地
被控訴人
兵庫税務署長
西本秋男
右指定代理人
饒平名正也
同
安居邦夫
同
山本昌二
同
長田憲二
主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
一 控訴人らは「原判決を取消す。被控訴人が控訴人らに対し、昭和四六年八月一七日付でなした相続税更正決定及び過少申告加算税の賦課決定処分(以上の処分のうち、国税不服審判所長が昭和四八年三月二九日付でなした裁決により減額された部分及び被控訴人が同五〇年五月一〇日付でなした減額処分により減額された部分を除く。)を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。
二 当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり附加するほか、原判決の事実摘示と同一である(ただし、原判決八枚目表八行目の「発行会社の」の次に「株主の」を加える。)から、これを引用する。
(控訴人らの主張)
1 被控訴人は、原判決添付の別表(三)なしい(五)記載の各「資産の部」のうち「修正申告により加算したもの」(別表(三))又は「調査により加算したもの」(別表(四)、(五))とある各資産(預金、有価証券等)は訴外会社の売上除外金によって形成されたもので訴外会社に帰属する旨主張するが、右のような売上除外金が生ずる余地がなかったことは、次の一事に照らしても明らかである。
すなわち、訴外会社の昭和四二年四月一日から同四三年三月三一日までの事業年度についての第一五期決算報告書の基礎となった同期の総勘定元帳(甲第九号証の一ないし五)によれば、富永の支配下にあった訴外会社荒田営業所における同期の売上高及び仕入高は次のとおりである。
(一) 総売上高 一九一九万五七五五円
(二) 仕入高
(1) 豆腐製造のための原材料仕入高 四七四万八〇三〇円
(2) こんにやく仕入高 二〇七万九四八〇円
(3) 牛乳・昆布巻等仕入高 二五〇万四三七八円
右のうち(二)の仕入高は、その性質上毎日の仕入金額を記載するものであり、かつこれに対する支払の関係上過少に計上することは不可能なものであるから、右の(1)ないし(3)の各金額は真実であるということができる。ところで、右営業所における営業部門別の荒利益率(売上高から仕入高を控除した残高が売上高に対して占める比率)は、右(二)の(1)にかかる豆腐の製造販売について六五パーセント、同(2)のこんにやくの仕入販売について二五パーセント、同(3)の牛乳・昆布巻等の仕入販売について一五パーセントであったから、右の各仕入高に基づいて売上高を逆算すると次のようになる。
(1) 豆腐 一三五六万五八〇〇円
<省略>
(2) こんにやく 二七七万二六四〇円
<省略>
(3) 牛乳・昆布巻等 二九四万六三二七円
<省略>
(合計) 一九二八万四七六七円
右の合計額が前記(一)の総売上高にほぼ合致するということは、前記元帳の記載が正確であること、したがって何らの売上除外も存在しないことを示すものにほかならない。
2 仮に、前記の各資産が訴外会社の売上除外金によって形成されたものであるとしても、右の売上除外行為は、肩書こそ訴外会社の代表取締役ではあるが荒田営業所についてのみ実質的な経営権を有していた富永が、他の取締役(とくに実質的な代表者であった被相続人清次)や本店の経理担当者らが関知しないまま自己の個人的用途に当てるため密かに右営業所の売上金を除外隠匿したもので、いわば横領行為にも等しく、したがって、右の各資産の帰属者は訴外会社ではなくて富永個人である。
(被控訴人の主張)
1 控訴人らの前記1の主張は争う。総売上元帳記載の仕入高が真実であるとする根拠はないから、これを基礎として算出した売上高が右元帳記載の売上高と合致するとしても、何らその記載の正確性を証明するものではない。
2 同2の主張は争う。
(証拠)
1 控訴人ら
甲第九号証の一ないし五を提出し、当審証人富永隆美、同片山政雄の各証言を援用。
2 被控訴人
当審提出の右甲号各証の成立は不知。
理由
一 当裁判所も、控訴人らの本訴請求はいずれも失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり訂正・附加するほか、原判決理由説示と同じであるから、これを引用する。
1 原判決二〇枚目表一二行目及び同裏一行目の各「証人」の前にいずれも「原審」を、同裏二行目の「但し」の前に「第一、二回。」を、同裏一二行目の「仕入、」の次に「製造、」を、同二一枚目表一二行目の「同月」の前に「同人らは」をそれぞれ加え、同裏六行目の「あることが判明し」を「ある預金であることを探知し」と改め、同行目の「出発点」の前に「その」を加え、同裏七行目の「印鑑簿と」を「印鑑簿に」と、同八行目の「一致した」を「一致する」とそれぞれ改め、同行目の「つづいて」を削除し、同九行目の「定期預金」の前に「順次」を加え、同行目の「入金され」を「振替えられたうえ」と、同一〇行目の「解約されていたこと」を「解約されていることを突止めたこと」とそれぞれ改め、同二二枚目表一行目の「これ」の次に「が訴外会社のものであること」を加え、同表四行目の「同人は」から同表一一行目及び同一二行目の「行われたこと」までを「同人は、右の各普通預金が訴外会社の荒田営業所の裏口座であることを認め、昭和三八年頃から同営業所の売上金(一日平均一〇数万円程度)のうち約半分だけを表口座である前記神戸銀行湊川支店の訴外会社名義の当座預金口座に振込み、これを同営業所の全売上高として本店へ届出でる一方、その余の約半分を密かに右の裏口座に振込んだうえ同口座に蓄積した預金を順次無記名の定期預金に振替えるなどして資産化していった旨、そしてこれら売上除外金によって形成された資産の関係書類は日興証券神戸支店の中村大蔵(架空)名義の貸金庫の中に保管している旨陳述したこと」と、同裏四行目の「申出による」を「陳述に基づく」とそれぞれ改め、同二三枚目表七行目の「家賃収入」の次に「(一か月合計一〇数万円)」を、同表一一行目の「また」の次に「控訴人ら」を、同行目の「本店」の次に「関係者」をそれぞれ加える。
2 原判決二三枚目裏一〇行目の「証人富永隆美(第一、二回)」を「原審(第一、二回)及び当審証人富永隆美」と改め、同二四枚目表二行目の「証人」の前に「前掲」を加え、同表五行目の「格別の」を「何ら右のような」と改め、同裏五行目の「ところである」の次に「が、前記のような脅迫行為があったものとまでは考え難い」を、同六行目の「信じられない。」の次に行を改めね「控訴人らは、総勘定元帳(甲第九号証の一ないし五)記載の仕入高と荒利益率とに基づいて算出した売上高が右元帳記載の総売上高とほぼ合致することを根拠に前示のような売上除外金が生ずる余地はない旨主張する。しかしながら、右の仕入高が真実に合致した正確なものであることを裏付ける証拠はなく(当審証人片山政雄の証言によっても、右の仕入高は荒田営業所から本店へ送付された仕入関係の伝票類に基づいて記帳されたものであることは認められるが、同営業所の仕入関係の伝票類が漏れなく本店へ送付されていたことまでは確認することができない。)むしろ前記四の認定事実に徴すれば、富永は売上除外金の存在を隠蔽するためその金額に対応する仕入額をも除外して本店に報告したものとの疑いが拭い切れないから、控訴人らの右主張は採用できない。」をそれぞれ加え、同六行目の「他に」から同七行目の「証拠はない。」までを削り、さらに行を改めて「他に原審及び当審で提出援用された全証拠によっても前記四の認定事実を覆えすことはできない。」を加える。
3 原判決二四枚目裏一〇行目の「されたもの」の次に「で訴外会社に帰属するもの」を、同一一行目の「ない。」の次に「控訴人らは、前記富永の売上除外行為は横領にも等しい同人の個人的行為であるからこれによって形成された右の各資産は訴外会社にではなく富永個人に帰属する旨主張するが、前示のように代表取締役である富永が右の売上除外行為を亡清次ら本店関係者に無断で密かに行ったということから直ちに右の所為が横領を構成するものと即断することはできないのみならず、仮にこれが横領行為に該当するとしても、この場合訴外会社としては、当然に不法行為もしくは不当利得を原因として富永から右の資産相当額を取戻しうる筈であり、したがって、訴外会社の全体としての資産額には増減を生じない筋合いであるから(取戻しが未了であれば、その取戻請求権が資産として計上されることになる。)、控訴人らの右主張は失当である。」をそれぞれ加える。
二 よって控訴人らの本訴請求をいずれも棄却した原判決は相当であるから、本件控訴をいずれも棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 唐松寛 裁判官 野田殷稔 裁判官 鳥越健治)